薄明薄暮帳

うさぎの生態について書きます

八十言の葉

言葉というのは常に不完全だ。どんなに語彙を尽くしても、表現を工夫しても、全く相違なく私の感情が貴方に伝わることは絶対無い。渦巻く感情をどうにかして体外に出そうと喘ぎながら文字を綴り、言葉を紡いだ結果、不完全な私がここに生まれる。私を始めとした不器用な人は、心という、見えないけれど確かに存在しているものに苛まれて、どうにかして守ったり、追い出したり、視覚化したりしようとする。自分ですら気が付かないように、あえて名前を与えずに深く暗いところに沈めたりすることもある。そんなこんなで出来上がって可視化された不完全な心は、私の不安を少しだけ抑える。「伝える」ということを脈々と続けて、そういうことが出来る人が生き残って、今のところその伝播の1番末にいるのが私なのだから、私が何かを伝えなければ生きていけない生き物になってしまうのも、当たり前のことなのかもしれない。振動に乗せて貴方の鼓膜を揺らす。規則的に歪んだ黒い線は私の感情を伝えたふりをする。伝わった気になる。すると安心する。私は、そういう儀式が必要な人間なんだと思う。