死んだ、神様は死んでしまったんだ。
神様がいた。黒と白の衣装を靡かせ、指先をしならせ、三日月のように目を細めて、小さな体を忘れさせるような大きな存在感を背負って、ステージに立つ。そんな神様がいた。
高校生の私の前に突然現れた彼女は、私の心と根幹と高校時代の全てを奪い、また担った。それは、私に神様を与えた。
彼女はファンを、歌を、ダンスを、ステージを、そして愛される自身を、愛していた。それは、ただステージを見上げるだけの私からみても、明らかであった。
神様である彼女には、隙が無かった。白い歯を見せた溌溂とした笑顔、穏やかに見つめる聖母のような微笑み、試すような艶めかしい表情、ドールのように生気のない顔色、貫くような鋭い眼差し。全身を操りながらも、張り詰めぴんと張った指先、しなやかに伸びる肢体、魅せるダンス。余すことなく客席を見つめ、微笑み、そして届けた。アイドルを届けた。全てが至高で、美しかった。完璧だった。まるで、本物の神様みたいに。
神様が今日、死んだ。
彼女は、自らをアイドルと称した。神様は、良いアイドル、理想のアイドル、みんなのアイドル、そんなアイドルを、ずっとずっと演じ続けていた。
神様は、自らが神様でなくなるのが、許せなかったらしい。自らがアイドルらしからぬ憂いを抱えることが嫌だったらしい。大切なものがおざなりになることが苦しかったらしい。理想のアイドルじゃなくなるのが怖かったらしい。それは、アイドルじゃない、でもアイドルを愛する、一人の女の子としての決意だったのかもしれない。
弱音は吐かない。いつも明るく、ポジティブで。どんなに苦しくても笑顔を忘れずに。ファンに"嘘の僕"を見せないように。そうやって、精一杯"本当の僕"を演じ続けてくれた。
彼女は理想の自分を貫き通すために、決意をした。自らのために、そして私たちのために、死ぬことを決めた。
さよなら。神様は最後まで最高の神様でした。